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2011-10-17

『ネズミの依頼品』

私の知る限り、ナズーリンが霖之助を呼ぶときの二人称は2つ。
『店主』か『霖之助君』。個人的に自分は前者のイメージ。

宝塔交渉の話もいつか書いてみたいけど、私にそんな技量はなかったぜ。
リクエストが当分終わりそうにもないので、またまた昔書いたSSをば。


『ネズミの依頼品』

主な登場人物
霖之助、ナズーリン



 春も終わり、辺りが新緑の色を帯び始めた魔法の森。
 春告精も自らの役目を終え、春の訪れは虫の鳴き声にその色を塗り重ねられつつある。

 店の周りからは蝉の賑やかな音色が何処からともなく響き、季節の移り変わりを否応なく実感させられた。
 少々暑さはあるが、穏やかだというのは間違いない、そんなある日の昼頃。

 ――カラン、カラン。

「店主、いるかい?」

 カウベルを鳴らして入って来たのは、見覚えのある風貌をした少女だった。

「ああ、以前店に来た……確かナズーリンだったかな?」
「宝塔の件では世話になったね、店主」

 世話になったというのはもしかしなくても皮肉だろう。
 何せ彼女が買って行った宝塔には、通常の買い物とは比較にならない程の値段を付けさせて貰ったのだ。
 具体的に言うと桁を二つ増やしたくらい。

「いやいや、こちらこそ久し振りに大きな取引ができて嬉しい限りだよ。これで当分香霖堂の経営は安泰だ」
「そりゃあ、あれだけの額を払ったんだから当然だろうね。……ま、代金は全てご主人様持ちだから構わないんだけど」

 特徴的な細い棒に灰色の髪、そして頭部から生えている大きな耳。
 ネズミ妖怪(らしい)のナズーリンは、僕のいるカウンターへつかつかと歩み寄ってきた。

「それで、今日はどういったご用件でしょうか?」
「今さら営業口調にならなくてもいいさ、君のその口調は違和感があって話し難いからね」
「……そうか。では、今日は何の用だい?」

 話し難いという言葉は何年も店をやってきた僕に少なからずのショックを与えた。
 霧雨の親父さんの店で修行していた時にも営業口調については散々言われてきたが、未だに克服できていなかったとは。
 今後からは気を付けるとしよう。

「そうそう、実は依頼したいことがあってね」

 そう言ってナズーリンはスカートの中からいくつかの物を取り出した。
 出来ればスカートの中ではなく入れ物を用意して欲しい。

「これは?」
「たまたま道端で拾ってね。鑑定を頼みたいんだ」

 てっきり売却目的で来たのかと予想していたのだが、どうやら外れなようだ。

 しかし僕に鑑定を依頼、か……。
 言っては何だが、僕は下手な質屋よりは正確に物の正体を明かせる自信がある。
 理由は大きく分けて二つだ。

 理由の一つは、僕の経営している香霖堂。
 この店は普通の道具は勿論のこと、魔法の道具や冥界の道具、外の道具など、ありとあらゆる道具を取り扱う店である。

 そんな道具達を取り扱う以上、広範囲の知識はある程度持ち合わせなければならない。
 閑古鳥が鳴き続けるのが常である店だが、一応僕だって曲がりなりにも商売人である。ある程度ではなく、それなりの知識は持ち合わせているつもりだ。

 そしてもう一つの理由は、そんな店を始めようとした発端でもある僕の能力である。
 未知のアイテムの名称と用途が判る程度の能力。
 この能力は物が今まで視てきた記憶を共有することで道具の本質を知り、果ては製作者の意図を把握することと等しい。

 分かりやすいように言うと、僕にはその道具が本物か偽物かの判別も容易にできる。
 例えば、ある骨董品に僕の能力を使ったとしよう。
 すると、偽物か本物かによって、まるで違う用途が浮き出てくるのだ。

 『名称:骨董品 用途:置いて眺める』
 骨董品は皿でも壷でも、それは物を盛ったり入れたりするものではない。
 これは芸術的な価値を見出だそうとした製作者の意図であり、想いである。勿論これは正しい用途であるので本物だ。

『名称:骨董品 用途:人を欺く』
 人を欺く、即ち周囲からその真価を隠蔽する用途。
 これは模倣した物の価値に縋ろうとした、製作者の私欲によって浮き出たものである。言うまでもなく、真っ赤な偽物。

 無論、物によってはある程度差異はあるが、それも知識との併用で何とかなるものだ。
 そういえば知識との併用と言えば以前、無縁塚で――

「店主、とりあえず依頼を受けてくれるかどうか答えてくれないかな?」
「……ああ、すまない、考え事をしていたよ。そうだね、依頼に関しては構わない、引き受けよう」
「全く、客がいるのに考え事とはね。やっぱり君は商売人に向いてないんじゃないか?」
「……気を付けるよ」

 僕の中でまた一つ、今後改善するべき点が増えた。

「……で、依頼したいのがこの品かい?」

 カウンターに置かれたのは見た目からして、全て外の世界の道具だ。
 素材も幻想郷では見られないものばかりで、この世界では非常に異質に感じられる。もっとも、この香霖堂ではそうでもないだろうが。

「ああ、物や道具の取り扱いなら多少の自信はあるんだけどね。生憎、こういう外の物はあまり触れたことがないんだ」
「それで僕の店に来た、と」
「ここはそういう専門の店なんだろう? ま、質屋ではないらしいが」
「わかってて依頼するのか君は」
「いいじゃないか、それともさっきの引き受けるという言葉は嘘なのかい?」
「嘘ではないけどね、君はもう少、し……」
「店主?」

 何気なく見た、カウンターに置かれた品々。
 その中の一つ、黒い球体状の物体を見つけた瞬間、僕の背中には大量の冷や汗が流れ始めた。

「ナズーリン、君はこれを何処で見つけた?」
「ん、これ? これは無縁塚で拾った物だけど?」

 やはり無縁塚か。

「それの名称は手榴弾。用途は爆発を起こす、だ」
「爆発だって? 随分と物騒じゃないか」

 そう、これは本当に物騒なものだ。

 以前、無縁塚でこれと同じ物を拾い、あれこれ弄っている内に起動用のレバーを外してしまって酷い目に遭うところだった。
 その時は身の危険を感じ、慌てて手榴弾を投げ捨てて最悪の事態を回避することに成功したが、その後に八雲紫から厳重な注意と警告を受けたのは言うまでもない。

「まあいい、それは此方で処理しよう。とりあえず、それを渡し――」

 ――ぴん。
 と、いう音が店内に響く。

 まさか、そんな訳がない。
 そんな淡い希望も虚しく、ナズーリンは不思議そうに手榴弾のレバーを引き抜いていた。

「――ッ! ナズーリン、それを思い切り外に投げろ! ただし真上にだ!」
「え? あ、あぁ、わかった」

 僕の声に押され、困惑しながらナズーリンは店から出た。
 そして、それほど力を込めているとは思えない緩慢な動作で手榴弾を投擲。

 ――した瞬間、僕の視界から手榴弾が消失した。

「……え?」

 思わず間の抜けた声が出てしまうが、その数秒後、聞き覚えのある爆発音が店内の商品達を揺らす。
 心底驚いたという表情でナズーリンは店に戻り、はぁと溜め息を吐いた。

「……いやはや、まさかこんな爆発物だったとはね。店主、すまなかった、今後は説明を聞いてから弄ることにすしよう」
「あ、あぁ、そうして貰えると助かる。それよりも――」

 謝罪をするナズーリンに、突然消えた手榴弾(僕にはそう見えた)の疑問を訪ねようとしたが、彼女が妖怪であることを思い出し、僕は慌てて口をつぐむ。

「どうかしたのかい?」
「あぁ、いや、何でもないよ。それより何処か怪我はないかい?」
「大丈夫だよ、店主の忠告のお蔭でかすり傷一つ負わずに済んだ」
「そうか。それはよかった」

 そう、彼女は僕みたいな半妖ではなく、純粋な妖怪なのだ。

 妖怪とは本来、人間の理解を超える異常な現象、又はそれを起こす力を持った非日常的な存在のことを指している。
 種族によって行動は様々で、驚かすことを糧とする者や人間を拐う者、はたまた何者にも干渉しない者等、実に多種多様だ。

 しかし、そんな妖怪達のほとんどに共通する点として、物理的な力が強いということが挙げられる。
 何故そんなことが共通しているのか分からないが、もしかしたら特別な力を持つことに何か関係があるのかもしれない。

 まあ、それを考えるのは後にしよう。直ぐに考える癖をナズーリンに指摘されたばかりだ。
 つまり、先程の消失したように見えた手榴弾は、ナズーリンの物理的な力によって、遥か彼方に投げ飛ばされたのだ。それも刹那の内に。
 もちろん速度も恐ろしく速かったに違いない。消えたように見えたのはそういうことだ。

「さて、鑑定を続けようか」
「よろしく頼むよ」

 改めて僕はカウンターに置かれた物に向き合い、手頃そうなぬいぐるみを手に取った。
 そのぬいぐるみは全身毛に覆われており、眼の他には嘴や耳と思われるものも付いている。どうやら鳥類を模したぬいぐるみのようだ。

「ふむ、一見ただの人形にしか見えないが……これはどうして拾ってきたんだい?」
「私も最初はそうだと思ったんだ。でも通り過ぎようとした瞬間、ダウジングロッドが微かに反応してね」

 コイツがね、とナズーリンはカウンターに立て掛けてある二本の棒を指す。

「色々と触ってる内にぬいぐるみの中に奇妙な感触があることに気付いたんだ」
「成る程、中に何か入ってるか……恐らく機械だろう」

 名称はぬいぐるみ、用途は……所持者とコミニュケーションをする、か。

 こういった類いの物は、実は意外とそう珍しいものではなかったりする。
 外の世界で幻想入りしてしまったのか、数年前からこれと似たような物が無縁塚に落ちているのをよく見付けるのだ。

 そのことを話すと、ナズーリンはあからさまに落胆の表情を浮かべた。

「なんだ、じゃあこれはゴミってことになるのかい?」
「いや、だが君の持っているダウジングロッドはそれに反応したんだろう? もしかしたら何かあるのかもしれない。貸してくれ」

 ナズーリンから渡されたぬいぐるみを受け取り、全体を回しながら見てみる。

「む、電源のスイッチが見付からないな……」

 機械が内蔵されているのなら、それを起動させるスイッチがある筈なのだが、それが全くといっていい程見当たらない。

 やはり壊れているのだろうか。
 そう思っていた時だった。

『……ファァ』
「!」

 今まで何の反応もしなかったぬいぐるみが突然、閉じていた目を開け、喋り出したのだ。

 とはいえ流石に無傷という訳には行かず、先程から『ブルスコ……ファー……』と奇妙な声ばかりを発している。
 残念ながらコミュニケーションを取るという用途は不能なようである。
 しかし、それでも僕はこのぬいぐるみが非常に価値のあるモノだと確信した。

「まさか動くとは……そのダウジングロッドの性能には驚かされてばかりだよ」
「愛用してる道具を誉めてくれるのは嬉しいけどね……コレもそんなに万能なモノじゃないんだよ」

 苦笑気味にナズーリンはダウジングロッドを一本だけ手に取りくるりと回す。
 店の商品に当たらないかひやりとしたが、それは徒労だったようだ。

「コイツは単に『珍しいモノ』という概念に反応する代物でね、何時もは私の能力とペンデュラムとで併用して使うんだ。ロッドにしか反応しないこのぬいぐるみを拾ったのは……まあ、気まぐれだね」

 ロッドで物に定義の篩に掛け、次にペンデュラムで存在意識の本質を視る。最後にナズーリンの能力である目利きで目当てのモノを見付ける。
 成る程、これこそ理想のダウザーだ。
 彼女ほど目利きのある者など、幻想郷ではそういないだろう。

『ブルスコ…………ファー……』

 未だに奇妙なぬいぐるみは奇声を発している。
 暫くあれこれ弄っても何の変化も無く、とうとうぬいぐるみは事切れたように動かなくなってしまった。

「エネルギー切れだね」
「残念だ、少し面白かったのに……」
「巡り巡って幻想郷に流れ着いた物だからね、直ぐに動かなくなるのが当然さ。寧ろさっきみたいに動く方が稀有だよ」

 無縁塚に落ちている大半の物が、世辞にも正常だとは言えない物ばかりだ。
 液晶という部分にヒビが入っていたり、あちこちが欠けていたり破損していたり。

 そういった観点から見ても、このぬいぐるみの希少さは伺えるだろう。

「さて、まだ鑑定してない物もあるし、次に行こうか」
「ああ、じゃあ次は……」

 そこからナズーリンは次々とカウンターに置かれた品々を僕に押し付けてきた。

「これは?」
「外の世界の通貨。残念ながらこの世界での価値は全く無いと言っていい。この紙に価値を与えている銀行というものが幻想郷には無いからね」
「これは?」
「電気扇風機。その上の回転する羽根によって風を発生させる冷房用機器……らしいが生憎と幻想郷には電気がない」
「これは?」
「えーと用途は…………君にはまだ早い」
「?」







 ――まぁ、色々あったがそれも終わり、ナズーリンから依頼された全ての品を鑑定した後。

「中々に有意義な時間だったよ。意外と興味深い物も見付けることができた」
「此方こそ有意義な時間を過ごさせて貰ったよ。また分からない物を拾ったら是非とも持って来てくれ、開店時間なら何時でも歓迎しよう」

 開店時間なら、という部分を少しだけ強調する。
 というのも、これは常連客である十六夜咲夜から学んだことだ。

 彼女が初めて来店し、店から出ようとした際、「お得意様なら何時でも歓迎しよう」と言ってしまったことが発端だった。
 それから彼女は文字通り、開店時間だろうがそうでなかろうが、どんな時間だろうが構わず来店するようになってしまったのだ。
 この前は……確か真夜中に河童の五色甲羅を売ったんだっけか。

 とにかく、お得意様が来店してくれるのは大変有り難いが、こうも勝手に来られてしまっては困るのだ。これでは営業時間というのも意味がない。
 一応、ナズーリンは大丈夫だと思っているが念には念を、というやつである。

 さて、とナズーリンは立て掛けていたダウジングロッドを二本とも手に取り、出口へと向かって行った。

「じゃあ、私はこれで――」
「さて、鑑定料の方だが」

 すかさず出ていこうとするナズーリンを呼び止める。
 やっぱりね、と言わんばかりにナズーリンは苦笑した顔で、僕が座るカウンターへと振り向いた。

「君は言ったね、鑑定を依頼したいと。店に依頼をしたのだから、料金はちゃんと払って貰うよ」
「予想はしていたけどね。あわよくばこのまま帰れたら良かったんだけど」
「…………」

 何と言うか……彼女も幻想郷の空気に毒された、とでも言えばいいのだろうか。
 非常に僕の店には良くない傾向の行動回路だ。彼女が幻想郷の少女として、この世界に馴染むのも時間の問題かもしれない。

「兎に角、代金はしっかり払って貰おう。商売は対価があって初めて成り立つんだ」
「はいはい、わかってるよ……って、あれ?」

 ごそごそと服のポケットを漁るナズーリンだが、彼女の手は目的の物を掴むことなく空気を掴んだらしい。
 はぁ、と僕は少し大袈裟に溜め息を吐いた。あの口振りからすると……まあ、そういうことなんだろう。

「……まさかとは思うが故意で忘れた訳ではないだろうね?」
「まさか、それはないよ。……可笑しいな、ご主人様の落とし物癖でも移ってしまったのかな」

 ご主人様の落とし物癖というと……あの宝塔を無くした張本人のことだろう。
 確か名は……寅丸星だっただろうか。ナズーリンが宝塔の代金が足りず、渋々借用書にサインした名前がその名前だ。

 後日、ナズーリンが見せた借用書の代金を見てかなり青ざめたらしい。結構な額だ、いきなり見せられたらそうなるだろう。
 勝手に主の名前でサインした当のナズーリンは「これで忘れ物も少なくなるといいんだけどねぇ」と、溜め息を吐いて代金を払っていた。
 これは彼女が単に薄弱なのか、それとも主の忘れ癖が相当酷いのだろうか。まあ、後者だと思うけど。

「……で、どうするつもりだい? また借用書でも構わないよ」
「ふむ……。……そうだ、これならどうだい?」

 そう言ってナズーリンが示したのは、さっき僕が鑑定した品々。

「これをかい?」
「言っただろう、気まぐれだって。私は別に欲しくて拾った訳じゃない、この物の本質を知りたかっただけさ。もう目的は達成したからいいんだよ」

 つまり彼女にとって既にこれ等は無用の長物、ということだ。それをお金の代わりにしようとは、些か虫のいい話だと僕は思う。

 だが……僕にとっては益となる物も多少は混じっている。しかも彼女は数少ない店の上客となるかもしれない相手。
 ここらが一番の頃合いだろう。

「……わかった、今回はこのカウンターに置いてある物で支払いの代わりとしよう。ただし、今回だけだよ」
「恩に着る。それじゃ、確かに支払いは済ませたよ」
「次に来店する時はちゃんと財布を持って来てくれると嬉しいね」
「わかっているさ」

 じゃあ、と言って今度こそナズーリンは店から出て行った。

「ありがとうございました。これからも香霖堂をご贔屓に」

 ――カラン、カラン。

 ……さて、この品々、もう少し詳しく調べてみるとしよう。
 最初は……そうだな、このぬいぐるみからだ。

 幻想郷には電気がない。そして幻想郷に流れ着く物は、電気が必要なものばかり。
 しかし……このぬいぐるみは、確かに動いたのだ。それも電気で動いた可能性が高い。
 もし、電気に関することが分かれば、今まで埃を被っていた道具達も――。

 想像するだけで期待で胸が踊る。香霖堂の名が知れ渡る日も、そう遠くないのかもしれない。

「さて、香霖堂が繁盛する為の第一歩といこうじゃないか」

 意気揚々と、僕は電気の解明研究へと没頭していった。



《了》

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Author:赤
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でも霖之助と少女達の恋愛はもっと好きです
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