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2011-06-30

『竹林で、時々永遠』

またまた暇なときに走り書きしてたSS。

慧音と霖之助は顔馴染み程度の関係。
妹紅と霖之助は知り合い程度の関係。
そんな感じ。



『竹林で、時々永遠』

主な登場人物
霖之助、慧音、妹紅






 
 短気は損気、という言葉がある。
 短気を起こすと結局は自分の損になる。字の如くの意だ。

 他にも急がば回れ、石の上にも三年、果報は寝て待てなど、先人の残した言葉には、何事も焦らず行動することを推奨する事が多い。

 焦りは小さな歪みを生み、歪みは大きな失敗を招く。歯車のように、一つの狂いが全てを駄目にする。
 そう、何事も焦る必要はないのだ。自分のペースで、自分のレベルで物事をこなす事こそが、最良の近道であると僕は思う。

 別に僕は年がら年中昼寝でもしているどっかの死神を擁護している訳ではない。
 忍耐と怠惰は全くの別物であるし、勿論その死神は後者の方だ。

 では、何故僕はこんな話をしているのか。
 この答えは単純かつ明快であり、たったの一言で済む。

 ――例外はあるのだ、何事にも。

「くっ、まだ追ってくるか……」

 時は妖怪の時間、夜。
 場所は訪れる者全てを迷わすことで有名な迷いの竹林。

 薄く霧が掛かり、竹だけが並ぶ暗闇の中、何処からともなく獣の鳴き声が響き渡る。
 落ち着けだの、マイペースだの、そんなことを言っている余裕は一切無い。
 もっと速くと自分の足に命令を下すも、その意に反するかのように身体はちっとも言うことを聞いてはくれなかった。

 必要最小限しか動かさなかった僕、森近霖之助の身体はとうに悲鳴を上げている。
 息も絶え絶えで、一度立ち止まってしまえば再び走り出すのは確実に不可能だ。

 再び、獣の鳴き声。

「――ッ!」

 先程の時より、明らかに聞こえてくる距離が近い。かなり追い付かれているようだ。

 速度的にも体力的にも分が悪過ぎる。
 そう思っていた時、

「あ――」

 かくん、と唐突に足が消失したように崩れ落ち、僕は無様に地面へと倒れ込んだ。
 立ち上がろうと必死になるも、足は震えて動こうとしない。
 やはり限界、か。

「っ、はぁ、はっ」

 息を切らせながら、次第に大きくなる足音の方へと目を向ける。
 そこには唾液を垂らしながら僕を睨む、数頭の狼の姿があった。

 狼達は僕の周りを大雑把な円状で囲み、逃げられないようじりじりと距離を詰めてくる。


「……、…………」


 未だに足は動かない。まあ、仮に動けるようになったとしても、囲まれてる時点で結果は変わらないと思うが。
 そんなことを、暢気に思う。
 諦めという感情が焦りを打ち消したのか、荒く呼吸をする反面、僕の頭は酷く冷静だった。

「……僕は半分妖怪だ、食べてもそんなに美味しくないよ」

 無論、言葉の概念すら知る筈もない相手にそれが伝わる筈もなく。

 僕の言葉を合図に、狼達は我先にと一斉に円の中心へ駆け出して来た。
 ぐるりと周りを見渡し、成す術が完全に無くなった事を確認した僕は、来るべき衝撃に備えて目を閉じる。




 ――瞬間。


「情けないなぁ霖之助、男ならもっと根性見せな」

 肌で感じる、焼け付く空気。
 耳で感じる、業火の咆哮。
 目を開ければ、闇に輝く烈火の不死鳥。

 そして、不死鳥を背にする少女が一人。
 紅の自警隊、藤原妹紅は僕に向かって挑発的な笑みを見せた。

「ほら、早く立った立った。少女の後ろで大の大人がへたりこむなんてみっともないにも程があるわよ?」
「……さっきまでずっと全力で走ってたんだ、みっともないもへったくれもあるもんか」
「全く、よくそれで生きてこられてるわねぇ」
「よく言われるよ。それよりも早く追い払ってくれると有り難いんだが」
「はいはい。……ほら、どっか行きな、焼身自殺なんてしたくないでしょ?」

 不死鳥は更に輝き、それと共に業火は激しさを増す。
 言葉が解らなくとも、本能で感じる圧倒的な力。それが嫌と言うほど伝わって来る。

 そう感じたのは僕だけでは無かったようで、先程まで威勢の良かった狼達は、怯えるように後退した。
 やがて、一頭の狼が逃げ出すと、それに続いて他の狼も次々と竹林の闇へと溶けていった。
 そうして、安堵の溜め息を深々と吐く。

「……助かったよ、ありがとう」
「お? 霖之助が助けて貰ってお礼なんて珍しいわね。明日は空から火の雨かな?」
「失礼だね。恩を感じれば僕は礼を言うし、非があれば謝罪をするよ」
「あはは、分かってるって」

 ――そう、珍しいのは僕が礼事を述べた事ではない。
 僕が彼女に礼を言う事となった原因、つまり『半妖である僕が襲われる』という状況を妹紅は珍しいと言ったのだ。

「霖之助って何時から妖怪辞めたの?」
「人間を辞める方法はあっても妖怪を辞める方法なんて無いよ」
「だよねぇ。…………ん?」

 ふと、妹紅が顔を上げた。

「どうかしたのかい?」
「……また何か近付いて来てる。さっきの狼達が戻って来たのかも」

 背に緊張が走る。
 妹紅がいるので襲われる心配は無いだろうが、さっきの出来事は僕の頭にしっかりと刻み付けられていた。

「…………彼処ね」

 そう妹紅が呟くのと、彼女が指した先の草むらが音を立てたのはほぼ同時であった。

 僕の緊張は更に高まる。
 妹紅は手の平に小さな火を出し、何時でも対応できるように構えた。

 未だに草むらはがさがさと音を立てている。
 糸を張ったような空気に包まれた中、ついに妹紅は動いた。

「――覚悟ッ!」

 妹紅が手に火を纏わせながら、草むらに突っ込む!


 そこには――


「うわっ!? 私は何か恨みを買われることでもしたか!?」
「っとぉ、って、え、慧音?」
「慧音だって?」

 驚きの面持ちをした人里の守護者。
 上白沢慧音その人であった。







「――成る程、霖之助が狼に襲われた、と。……ところでお前達は何で此処に?」
「野暮用でちょっと永遠亭に」
「野暮用でちょっと輝夜殺しに」
「野暮用で人を殺すな馬鹿者が」

 ごつん、と鈍い音が竹林に響く。

「ったぁ! っぐ……っ!」

 渾身の頭突きを慧音から貰った妹紅は、衝撃を受けた額を押さえて悶絶していた。

「さて、霖之助、お前が襲われた原因だが」
「……彼女はいいのかい?」
「ほっとけば元通りになる。今は反省させておけ」
「……そうか」

 この場で待っていてもなんなので、僕と慧音は永遠亭に向かって歩き出す。

 現在の時刻はおそらく酉の刻。だいたい七時くらいだろう。
 夕方頃には戻る予定だったのだが、思いの外時間を取られてしまったようだ。

「で、襲われた原因だが……正直、私にも分からない」
「ふむ、君でもわからない、か」
「私を過大評価し過ぎだ。私は聞いた瞬間答えを弾き出せる程の頭も持ち合わせていないし、お前が思ってる程万能でもない。寧ろこういう話はお前の方が詳しいと思うが」
「そう言われてもね……。僕もこんなの初めてだよ」

 君もそうだろう? と、僕は慧音に視線だけで問い掛けた。

「そうだな、普通の動物は本能的に私を襲うことを避ける筈だ」
「動物は色んなものに敏感だからね、直ぐに相手が食べられるか否かは気が付く――筈なんだが」
「今回は違ったと」
「余程お腹が空いてたのかな、涎垂らしながら凄い形相で追い掛け回されたよ」
「ふむ……」

 顎に手を添え、考える仕草をする慧音。
 人里で僕が修業していた頃から変わらない仕草だ。

 暫く慧音とこの出来事について話していると、額を押さえる妹紅が後ろから追い付いてきた。

「酷いよ慧音に霖之助。置いてかなくてもいいじゃない」
「妹紅は一人でも竹林で迷う事はないし、例の狼と遭遇しても追い払える。信頼の証だ」
「嫌な信頼のされ方ねぇ」

 まあ他にも置いてった要因はあるんだけどね。
 分かってると思うので言わないが。

「そうだ妹紅、お前はずっと竹林にいただろう? 何か変わった事はなかったか?」
「んー? そうだねぇ……」

 僕と慧音の視線が妹紅へと移る。
 今日一日を思い出しているのか、少し時間を開けて妹紅は返答した。

「特に変わったことは無かったかな。霖之助が襲われて、私も初めて何か起こってるのかって不思議に思ったし」
「そうか……」
「……そう言えば、妹紅は襲われたりしないのかい?」
「私?」

 知り合ってから少々疑問だったことだ。
 竹林には兎等の害の無い生き物もいるが、それを狙う狼や肉食の生き物も存在している。
 そんな環境で、しかも人間が一人で住むのは危険ではないのか。
 そんな疑問に、妹紅はあっけらかんと笑った。

「大丈夫、もうここで住むのは慣れたよ。……始めは大変だったけどね」
「踏み込んでいい話かい?」
「いいよ、重い話じゃ全っ然ないし」

 妹紅が遠い目をしていたので思わず尋ねたが、どうやら無用な心配だったようだ。

「いやーあの頃は散々だったよ。着替えはないし、食事は毒茸に当たるし、家は今の小屋が見付かるまで竹や岩にに寄り掛かって寝てた」
「衣食住が悉く欠如してるね」
「というか私もこの前、妹紅の茸料理で酷い目に遭ったぞ」
「あっはっは。いやぁ災難だった災難だった」

 妹紅はけらけら笑うが、正直同情を感じざるを得なかった。(あと慧音にも)
 僕だって店を立てるまでそれなりに苦労はしたが、衣食住は霧雨の親父さんに色々と世話になっていたお陰で、それなりに恵まれていたのだ。

「……で、生き物に襲われた経験は?」
「あるよ」

 間髪を入れずに妹紅は答えた。

「でも、それなりに力はあったから。適当に火を見せれば逃げるし、そこら辺は全く問題なかったかな」
「へぇ……」

 成る程、僕と同じようなことにはならなかった、と。

「というかさ、私は霖之助が襲われたのが今日初めてってのが驚きなんだけど。慧音は兎も角さ」
「? 何故だい?」
「そんなひょろそうな身体なら誰でも勝てそうに見えるから」
「…………」

 妹紅は慧音より僕の方が襲われてそうと思っていたらしい。
 若干、男としてのプライドが傷付いた気がする。

 僕は苦笑しながら、何気なしに空を見上げた。
 竹の合間に覗く月、今日は半分だけが輝いている。
 片割月と呼ばれるそれは暗闇の中、悠々と佇んでいた。

「僕は半人半妖。半分妖怪だから襲われることはなかったし、半分人間だから退治されることもなかった。そういうことだよ」
「ふぅん……」
「…………」

 妹紅は納得したように頷き、慧音は訝し気な視線を送って来る。
 慧音の視線を無視して、僕は永遠亭への道を歩き続けた。

「……まあいい。とにかく霖之助、お前は原因がわかるまで外出は控えた方がいい」
「言われなくてもそうするつもりさ」

 そうして、僕達は月明かりが照らす中を歩いていく。

 時折交わされる会話は、他愛もない、日常のあれこれ。
 たまに此処で光る竹を見掛けるとか、いい加減人里で店を開けとか、今夜屋台で呑まないかとか。

 妹紅が腹を抱えたり、慧音が呆れたり、僕が苦笑したり。
 誰が聞いても直ぐに忘れてしまうような、そんな話。

 ――そうだ、それでいい。
 こんな場所で、僕の昔話なんか必要ない。

 此処は幻想郷。
 最も美しく残酷で、全てを受け入れる、人間と妖怪の楽園。
 半妖の僕や慧音でも、蓬莱人の妹紅でも、誰もが笑って過ごせる場所。

 昔のことなんてどうでもいい、今を楽しめればそれでいいんだ。
 此処は、誰からも忘れ去られた者達の土地なのだから――







「――お、着いた着いた」

 歩くこと暫し、妹紅は見えてきた屋敷を指差した。

 永遠の民と妖怪兎が住まう永遠亭。
 永久と須臾、二つの狭間に位置し、変化を常に拒否し続ける場所。
 輪廻転生の輪から外れたことを錯覚させるその佇まいに、僕は思わず息を飲む。

「あれ、店主さん? それに慧音さんに妹紅さんも」

 永遠亭の屋敷を前にぼおっとしていると、不意に掛けられた尋ねる声。

「珍しいですね、わざわざ此処に来られるなんて。もしかして置き薬が切れちゃいました?」

 竹製の箒を片手に近付いて来るのは幻想郷唯一の月の兎、鈴仙・優曇華院・イナバ。
 どうやら掃除中だったらしく、ここら一帯の落ち葉は綺麗に纏められていた。

「ああ、別に医療関係じゃない。僕は君に用があって来たんだ」
「私に……ですか?」

 ポーチから手探りで目的の物を出し、鈴仙に渡す。
 渡された本人は、きょとんとして手にある物を見つめた。

「封筒……手紙ですか?」
「まぁ、開けてみればわかるさ」

 無機質な白い封筒に入れた白い紙。
 これで僕の目的は達成された訳だ。色々と予想外な事はあったけどね。

「なになに、もしかして恋文?」
「妹紅、君は本当にあれが恋文だと思ってるのかい?」
「うんにゃ、全く」

 妹紅と少しやり取りしている間に、慧音は鈴仙と何かを話していた。
 やがて話が終わったのか、慧音が僕達に向き直る。

「何の話をしていたんだい?」
「今回の狼の件について少しな。この竹林に住んでいる訳だし、注意に越したことはないだろう」
「あ、は、はい、そうですよね、ご忠告ありがとうございます。あ、あははー……」
「?」

 ばつが悪そうに、或いは居心地が悪そうに鈴仙は頬をひくつかせた。
 おそらくは僕とは別の形で、既に狼の被害に遇ったのだろう、僕同様気の毒なことだ。

「え、と、妹紅さんはどんなご用件で? 姫様なら出掛けてて居ませんよ」

 狼の被害を思い出すのが嫌だったのか、急に鈴仙は話題を切り替えてきた。
 先に言われた輝夜は居ないという言葉に、妹紅はつまらなそうに嘆息する。

「なんだ、せっかく輝夜をボコボ――ご、ごほん。い、いやー私は霖之助を此処まで案内しただけだよ。は、はは……」

 慧音に鋭い視線を向けられ、慌てて妹紅は言いかけた言葉をうやむやにする。
 そんなにあの頭突きは堪えるのだろうか。試す気はさらさら無いが。

「それじゃ、夜分遅くだしこの辺りで失礼させてもらうよ」
「え、あ、この封筒は……」
「あぁ、別に急ぎの用事でも無いから君の仕事が終わったらでも見てくれ」

 元々今日は気まぐれで来ただけだし。

「わかりました。皆さん帰りもお気を付けて」
「ああ、永遠亭の医者にもよろしく伝えておいてくれ」

 慧音がそう言い、僕達は再び来た道を引き返して行く。
 僕達が去った後、鈴仙はふぅと安堵の息を吐いたのだが、誰もそれに気が付くことはなかった。







 ――師匠、ちょっといいですか?

 ――また竹林に実験薬とか撒きませんでした?

 ――先程香霖堂の店主さんがここに来られる途中、狼に襲われたみたいです。

 ――そんな薬作ってない? 異変か何かじゃないだろう?

 ―― …………。

 ――信じてないだろうって?

 ――信じてますよ、今みたいに露骨に顔をそらさなかったらですけど。

 ――はぁ、お願いしますよほんとに。さっき慧音さんや妹紅さんも来て焦りっぱなしだったんですから……。

 ――え? この封筒ですか?

 ――店主さんから渡されたんです。私宛にらしいですけど。

 ――中身は……えーと、なになに?

 ――屋根の修理代、傘型銃使用料、合羽貸出し代……

 ――え、えっとこれは……。

 ――し、師匠? 笑顔だけど顔が怖いです。というかその手に持ってるそれは駄目、ちょ、待っ、







「はい、八目鰻の蒲焼きお待ちどおさま~♪」
「おー、美味そうだな。頂きまーす」
「……霖之助、いいのか? 本当にお前の奢りで」
「ああ、構わないよ。近い内、臨時収入が入る予定だから」
「……臨時収入が入る予定?」
「臨時収入が入る予定」
「……まあ、よく分からんが奢って貰えるのなら遠慮なく頂くか。店長、熱燗一つ」
「はいは~い♪」

 夜雀の営む屋台で猪口を傾け、気分の良い夜はあっという間に更けていく。
 空に浮かぶ月を見上げ、僕は小さく微笑んだ。

 願わくば、こんな日常が永久に続きますように、と。


 《了》

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ケータイから失礼!


早速読ませて頂きました。妹紅の口調は作品によって男口調だったり女口調だったりするのでさぞかし大変だったと思いますが、いいかんじでした


欲を言えば、こーりんとけーねが香霖堂でイチャイチャするような作品もあったらいいんですけどねー(チラッチラッ


そしてわざわざうp有難うございましたm(__)m
楽しませて頂きました!
プロフィール

赤

Author:赤
霖之助が好きです
でも霖之助と少女達の恋愛はもっと好きです
苦手な方は今すぐ戻るのボタンを!

東方は専ら非想天則ばっかりやってます
あんまり伸びないのが最近の悩み

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