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2012-03-09

『欲から始まる初めまして』


トゥットゥルー、自分の文才が特に嫌になってきた!

まあそんなわけで(?)、今回も昔書いたサルベージ作品となります。
設定も少し自分の解釈(というか間違い)もあるかもしれませんがお許しください。

まあそんなことより朱鷺子かわいいよ朱鷺子。
朱鷺子が可愛いのは世界の真実であり心理だってけーねが言ってた。


『欲から始まる初めまして』

主な登場人物
霖之助、名無しの本読み妖怪





 ――ドンドンバン!

 朝から非常に騒がしい。
 それが僕、森近霖之助が早朝から目覚めての感想だった。

 布団から身を起こすと、起きた拍子にできた布団と身体の隙間に、外の冷たい空気が入り込む。
 身体を震わせながら立ち上がり、渋々僕は騒音がする方へと向かって行った。

 歩きながら窓越しに外を覗くと、外の森は真っ白な世界へと変わっている。
 どうやら夜の間に雪が降っていたようだった。明日も降ったら雪掻きくらいしとくか。

 ――ドンドンバン!

 それにしても先程から荒々しくドアを叩いているのは一体誰だろうか。
 僕はこんな喧しいモーニングコールを頼んだ覚えはない。
 ……まあモーニングコール自体頼んだことはないのだが。

 ――そういえば前にも……。

 以前に半人前の少女が来店した時のことを思い出す。
 たしかあの時は確かドアを強く叩き過ぎて――

「中にいる青黒! 居るんでしょう、扉を開け――ひゃあっ!?」


 ――ドドドド……ドサ

 そうそう、屋根の雪に反撃を受けたんだっけ。

 溜め息を吐きつつ外に出てみると、そこには「つ、冷たいー」と叫ぶ、なんとも奇妙な雪の山が玄関に鎮座していた。
 妖夢の初来店の時と、状況が全く一緒である。

 ただし、山から突き出ているのは二本の剣ではなく、鮮やかな朱鷺色の羽。
 そんな羽が忙しなくぱたぱたと動いている。羽の主は雪の中でもがいているようだ。

「こんな早朝から何か用かい? まだ開店まで時間があるんだが」
「そ、それより今はこの雪をどかしてぇ! 冷たいし動けないー!」
「あんな強くドアを叩けば雪だって落ちてくるさ。自業自得だと僕は思うけど」
「い、いいから早く!」

 全く、我が侭な客である……いや客じゃなかったか。
 さてどうしたものか。とりあえず要件から聞いてみよう。

「とりあえず喋ることが出来るなら用件は聞ける。雪を崩すのはそれからでもいいんじゃないか?」
「よくない! これすっごく寒いのよ! ……ああもう、今日は本返せとか言わないから今すぐ助けて!」
「わかったよ、わかったからこれ以上騒がないでくれ」

 今日はという言葉が引っかかるが、これ以上騒がれても嫌なので助けることにする。
 そもそも自分が蒔いた種だろうに……やれやれ、早朝から骨が折れそうだ。

 素手で雪を退かすと霜焼けになってしまうので、店から手袋を持って来る。
 外の世界で『すきー』というものに使う手袋らしく、生地がとても厚い。これなら大丈夫だろう。

 早速上から雪を崩していくが、結構な量が積っている。少し時間が掛かりそうだ。
 そうして顔辺りの雪をどかし、手足が見えたところで声を掛けてみる。

「これならどうだい? 自力で出てこられるかい?」
「うーっ、うー……む、むりぃ……」

 まだ駄目か……なら足を引っ張れば――

「ひゃう!? ちょっと、何するのよ!?」
「いや君の足首を持って引っ張り出そうかと」
「そのまま引っ張ったらパンツ見えるでしょうが! もう、えっち!」

 助けて貰う人に随分な言い様だ。
 まぁ、今回は自分の方に非があるので仕方無い。相手が少女だということを気遣ってやるべきだったか。






「よい……っしょ!」

 雪山と格闘すること数分、やっとのことで僕は雪に埋もれた人物の姿を確認することができた。

 前と左右だけが青みがかった短めの髪、その髪からは二本の小さな角と片翼の翼が生えている。
 服は黒、青を基調としたフリルの沢山あしらわれた服装で、背中から生えている朱鷺色の羽と見事に調和がとれていた。

 毎度服の依頼を(ツケで)受けている身として参考になる……と、思った矢先。

「っくしゅ!」

 少女が可愛らしいくしゃみを発した。
 まあ先程まで雪に埋もれていたのだ、体温は下がり切ってるだろうし、暫くすれば雪が溶けて服はびしょ濡れになってしまう。
 そろそろ僕も寒いし、店に中で暖を取ることにしよう。

「色々言いたいことはあるがとりあえず中に入ると良い。風邪は引かないと思うが寒いだろう?」
「う、うん……お邪魔します……」

 がちがちと身体を震わせ、少女は店内へと入った。ストーブは点けていなかったので寒さは変わらないが、冷たい風に身を晒し続けるよりはずっといいだろう。

 僕はストーブを点け、着替えと暖まるまでの繋ぎとして彼女に毛布と懐炉を渡した。
 懐炉は以前、無縁塚に大量に落ちていたもので、在庫もたっぷりある。
 あんなに寒そうにしてるんだ、使ってもいいだろう。道具は使ってこそ、道具としての存在意義が生まれるのだ。









「お、おぉ!?」

 懐炉を渡してから数分も経たない内に、急に少女から素っ頓狂な声が上がった。

 ちなみに現在彼女は先程の服ではなく僕の替えの服を着ている。
 流石に異性の服を渡すのはどうかと思ったが、彼女は曰く「濡れた服より全然良い」だそう。そういうものか。

「どうしたんだい?」
「暖かくなってる!」

 今でも徐々に暖かくなっているであろう懐炉を眺め、少女は興奮気味に僕に説明を求めてきた。

「なんで!?」
「外の世界の『使い捨てカイロ』というものだよ。外気に触れることで熱を発するんだ」

 これは様々な試行錯誤の産物である。
 内容物で火傷したり、それを隙間妖怪に笑われたりと散々な代償を払ったが……まあ、知識を得られただけでも良しとしよう。
 時には挑戦心を持つのも大切なことだ、例え結果が何であろうと。

「へぇ~……」
「そもそも懐炉(かいろ)はこの使い捨てカイロと違い、江戸時代までは温石(おんじゃく)を使用するのが一般的だったんだ。そして江戸時代の元禄期初期に木炭末に保温力の強いナスの茎の灰を混ぜた――」
「ん、温石ってなに?」
「ああ。火鉢で石を加熱してそれを布に包んだ物だよ。それを懐に入れて暖まるのさ。平安時代末頃から江戸時代にかけて主流だったそうだよ」
「ほぇ……凄いわね」
「そうだね、先人の遺した知恵や技術があるからこそ、今僕達の生活が成り立っているものだからね。それでさっきの話だが――」
「いや、凄いってのはアンタのことよ」
「え?」

 肩透かしを食らった気分になりつつも、僕は振り向いた。

 そこにあったのは、純粋な好奇心と尊敬を念を宿した真っ直ぐな瞳。
 羽と同じ色をした赤い双眸は妖怪特有の鋭さを持ち、まるでルビーを嵌め込んだように輝いている。
 それは幾分幼さが残るものの、十二分に人を見て離さない魅力を放っていた。

「外の道具とか、昔の事とか、意外と色んな事知ってるのね、あんた。なんか本の事とかどうでもよくなっちゃった」

 にへ、と柔和な笑みを浮かべ、少女は懐炉を握り締めた。

「ねぇ、外の世界の話、もっと聞かせてくれない?」

 ほう、と僕は思わず感心した。
 幻想郷に外の世界に対して関心を持つ者は少ない。その理由は、今の幻想郷が様々な者を共存させる、一種の理想郷となっていらことにある。

 人は妖怪から喰われること無く、妖怪はスペルカードという玩具を手にした。
 新しい制度、生活、暇潰し。そんな皆が満たされた平和な世界だからこそ、人々は得も知れぬ外の世界に関心を示すことはない。

 そんな世界に居ながら、彼女は知識を求めてきた。

「ああ、服が乾くまでだったら構わないよ。それじゃあ先ず何から話そうか……」

 久々に、知識を求める者との会話。霧雨の親父さんに弟子入りしていた頃の自分が、僕の脳内に浮かぶ。
 緩む口元を抑えきれず、僕は自然と笑みを浮かべていた。







 さて、暫く彼女との会話を続け、驚いたことが二つある。

 まず一つ目として、彼女は字の読み書きが出来ること。
 妖怪は魔女や天狗、或いは古参の妖怪等でない限り、人間の字を読み書き出来る者は少ない。
 理由は至極簡単、彼女らの糧とする、人を襲う行為に字の読み書きなど不要だから。

 そして二つ目。
 知識を求める際で半ば予想はしていただが、まさか本当にそうだったとは思いもしなかった。

「――つまり、このパーソナルコンピューターは月の魔力を利用した式神だと僕は考えている」
「月の魔力を使うなら……使役できるのは魔力が高まる夜だけにならないかしら? それはちょっとおかしくない?」

 僕と同様に外の知識を持ち、自分の考えで議論ができること。
 これは古参の妖怪でも珍しい事だ。いや、滅多にないことだといってもいいかもしれない。
 魔法や呪術にも精通した意見を彼女から持ち出された時は思わず呆然としてしまったものである。

「しかし驚いたよ、まさか君が外の世界の知識を持っているなんてね」
「? 外の世界の本を持ってたんだから、そのくらい想像つくでしょ?」
「いや、そんな――」

 ただ文字を読んでただけだと思ってたよ。

 そう口にしようとしたが、考え直して別の言葉を選ぶことにした。
 これも話しててわかったが、彼女は意外にもプライドが少々高い。
 おそらく前の言葉を投げれば激怒していたに違いない。

「あー、まあ、そうだね。我ながらうっかりしていたよ」
「? 変なのー。それよりさっきの話だけど――」

 それから彼女は自分なりの意見、考えや理論を展開させた。
 僕のと比べても、着目点から結論までまるて違う。しかし妙に僕達の議論は弾み、気が付くと太陽は結構な高さまで昇っていた。

「――おや、もう昼時か」
「え、もうそんな時間なんだ」

 どうやら彼女も僕と同じ時間の速度を過ごしていたようだ。充実した時間は過ぎるのが速い。

「服が乾くまでと言ったが……随分話し込んでしまったようだね」

 元々少し湿っていた程度だったし、雪も可能な限り払ったのだ。確認するまでもないだろう。

「うん、乾いてる乾いてる」
「服も乾いたが……よければもう少し君の意見を聞かせてくれないかい?」
「勿論いいわよ!」

 ぱっと目を輝かせる少女。
 僕の彼女に対する印象は、今日の出来事でがらりと変わってきていた。

「……今日で君に対する評価を改めるべきだと思ったよ」
「評価?」

 少女が首を傾げる。

「最初に君と会った時、失礼だが僕はこう思ったよ、『なんて無遠慮で無知な子だ』ってね」
「本当に失礼ね」

 むすっとした膨れっ面に少し笑う。

「だが……それは違ったようだ。君はそこらの者達よりよっぽど豊富に知識を持っている。話している中でも学びに対する努力の片鱗も垣間見た。その姿勢は敬意も表せるくらい、君には好感が持てるよ」

 ちょっと元気過ぎるがね、と苦笑しながら付け加えたが、この言葉は彼女の耳に入らなかったようだ。
 何故か彼女はいきなり石のように固まり、顔は徐々に赤みを帯びてきている。

「こ、こう、かん……?」

 食い付いたのはそこらしい。
 驚きに目を見開き、頬に紅葉を散らす少女は、誰が見ても照れていると判別できる。

 成る程、今まで誰かに褒められるという経験が殆どなかったのだろう。
 褒める行為は意欲を与え、叱る行為は善悪の知識を与える。
 叱ることはともかく、妖怪を褒めるヒトなどまずいない。自堕落に過ごす妖怪が多い理由の一つだと、僕は思う。

「すっすっすき……って、こと?」
「そうだね、少なくとも……というか大丈夫かい? 顔が赤いよ」
「ぅえ!? あ、いや、だ、大丈夫、ぜんぜん大丈夫だよ!?」

 自分は寒いと感じているのに、彼女の顔はいつの間にか首辺りまで真っ赤に染まっていた。
 妖怪なので熱ということはないだろう、顔が赤くなっているだけ……いやでも赤くなるのは血が上っている証拠だし――

「……ちょっと失礼」
「うひゃぁ!?」

 彼女の額に自分の額を当ててみる。先程から発言に妙な違和感を感じるし、もしかしたら病気かもしれない。

「随分熱いな……大丈夫かい? 妖怪に身体的な病気は罹りにくいと聞くが――」
「あ、あぅ……」
「? 君?」

 金魚のように口を開閉する少女。これは医者に見せた方がいいのだろうか。

 そう思っていること暫し。

「…………ふにゅう」
「不入?」

 意味が分からず首を傾げると、いきなり少女がぐらりと前のめりに倒れ掛った。

「あ、おい――」

 慌てて少女を抱き抱える。
 驚くほど軽い体重に若干戸惑うも、彼女の様子を伺う。

「……きゅう」
「……ふむ」

 どうやら気を失っているだけのようだ。







 目を開けると、そこには見慣れない古ぼけた天井があった。

「ん……」

 欠伸を噛み殺し、一先ず私は状況を把握する為に周りを見渡す。

 端に必要最小限といった感じに置かれている箪笥と卓袱台。
 その真ん中に敷いてある部屋の布団で、私は眠っていた。

「…………」

 えーと、私は何をしてたんだっけ?

 ……あ、そうだ! あの青黒から本を取り返そうとして……雪に埋もれて。
 何だかんだで脱け出して、色々あって、アイツと昼まで話をして。



 それから――


「……うぁ」

 顔が物凄い勢いで熱くなってくる。
 お、落ち着け私、冷静になれ!

 たかがおでこごっつんこしたり、好感が持てるって言われただけで……。



 好感が……好感…………好……好き。


「い、いやいや違う違う違う! 好感ってのは好ましいという感情であって必ずしも――」
「おや、目が覚めたかい?」
「うひゃぁ!?」

 唐突に掛けられた声に驚き、私は声の方へと振り返った。
 
「いきなり倒れるから心配したよ。何処か身体の不調は感じないかい?」
「あ……う、うん、大丈夫」

 寝室に入って来るなり青黒は、私に気遣う視線を向けてきた。
 本を取り返しに来た時の顔からは、とてもじゃないけど想像すらできない表情だ。
 意外な一面……なのかな?

「大丈夫なら構わないが……本調子じゃないなら泊まっていくかい?」
「と、泊まっ――!」

 なんだろう、今日は何か色々と変だ。
 さっきから私の顔は熱くなってばかりだし、この青黒はびっくりするくらい優しい。

 ひょっとして私はまだ寝ていて、夢の中にいるのではないか。
 そう思って軽く頬を抓ってみても、やっぱり現実は痛みをもって私に真実を教えてくれた。うむぁ、ほっぺいたい。

「えっ、と……」
「妖怪とはいえ身体を疎かにしてはいけないよ。精神と肉体は非常に密接な関係にあるからね」
「そ……そう? じ、じゃあ泊まっちゃおうかなー……?」

 便乗する形で、私は青黒の提案を受け入れたのだった。







 ――トントン

 部屋の奥から包丁のリズミカルな音と、食欲をそそる魅惑的な香りが運ばれてくる。青黒が夕食の準備をしてくれているのだ。
 ふぅと溜め息を吐き、私は今日一日の出来事を振り返る。

 青黒な店主。
 最初は紅白と白黒を従えた、血も涙もない悪の魔王みたいな奴だと思っていた。

 けど、それは私の見た勝手な憶測で。
 本当は物知りで、話すと楽しくて、気遣ってくれて。
 なにより私を初めて認めてくれた。


 そして――


『……ちょっと失礼』
『うひゃぁ!?』

 あの時の出来事がフラッシュバックして甦る。
 あの間近で見た金色の双眸。それが私の脳裏に焼き付いて離れない。

 そっと自分の両手を頬に添える。カイロで戻った筈の両手の温もりは、随分と冷たく感じられた。

「……おかしいな」

 さっきから私は変だ。
 どこが変だと言われても説明に困るが、とにかく変なのだ。

 こんなにもどきどきして、身体がふわふわして、妙にそわそわする。
 特に青黒と話していた時は、心臓のどきどきがアイツに聞こえてるんじゃないかって不安で仕方がなかった。
 そんなこと、あるはずがないのに。

「これじゃまるで……」

 この霞の掛かった、表現し難い感情。私には一つだけ心当たりがあった。

「…………」

 でも、その感情を言葉に出すには、まだまだ色々と足りないものが多すぎる。
 そうだと言い切れる根拠も、それを青黒に打ち明ける勇気も、今の私は持ち合わせていない。

 だから――

「おーい、準備が出来たから運ぶのを手伝ってくれなかい?」
「あ、うん。今行く」

 私は立ち上がって台所へと駆けて行く。
 そうしてぐっと拳を握った。

「先ずは名前と自己紹介から……だよね」

 初めましてから始めよう。
 このあやふやな感情を、確かなものへとする為に。



 <了>

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Author:赤
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でも霖之助と少女達の恋愛はもっと好きです
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